3月8日 毎日新聞夕刊 記事掲載

転送されない場合こちらをクリックしてください。

ジストニア:紡げぬ右手「難病理解を」 ピアニストの智内さん、翻訳本計画

ジストニアにかかりながら再起し左手だけで演奏活動を続けている智内威雄さん=大阪府箕面市で
 脳の運動制御機能の障害が原因とされる疾患「ジストニア」のため、左手だけで演奏活動をしているピアニスト、智内威雄(ちないたけお)さん(34)=大阪府箕面市=が、病気を分かりやすく解説した「音楽家のジストニア」の翻訳本出版への協力を、演奏会などで呼びかけている。音楽家以外もかかる病気で、国内の患者は数万人とされる。智内さんは「日本ではほとんど知られていない。本を通じて理解が広がれば」と訴える。

 智内さんは、東京音大卒業後に留学したドイツの音大で01年に発症。右手の指がうまく動かせなくなり、ピアノが弾けなくなった。リハビリを続けたが、繊細な指の動きは戻らなかった。

 「ピアニストとしては絶望的だ」と苦悩していたところ、留学先の音大教授から、左手だけの演奏を勧められた。05年の卒業試験では、コルンゴルトの「左手のための室内楽」を弾き、最優秀の評価を受けた。卒業後は日本を中心に演奏活動を続けている。病気を知ってもらおうとチャリティーコンサートも開いている。

 09年に患者や医師らでつくるNPO法人「ジストニア友の会」(川崎市)が企画したコンサートで演奏した縁で、会が「音楽家のジストニア」の日本語訳を出版する計画を知った。スペインの医師が書いた英語の本で、約300ページ。ジストニアに罹患(りかん)した演奏者の症状や診断・治療法などが記されている。

 現在、ボランティアが翻訳を進めているが、出版が決まったわけではない。友の会が1月末からホームページ(HP)で出版を要望する声を募ったところ、200通以上が寄せられている。近く交渉中の出版社に届ける。

 智内さんは先月25日、演奏会を開いた。右手を太ももの上に置いたまま、左手とペダルで流れるように演奏し、「あともう一歩で出版が実現します。皆さんも協力してください」などと呼びかけた。智内さんは「腱鞘炎(けんしょうえん)と誤診されたり、気持ちの問題だと誤解されたりしている日本の現状を変えたい」と出版を願っている。【矢島弓枝】

==============

 要望の宛先は、友の会のHP(http://www.geocities.jp/dystonia2005/)など。問い合わせは友の会の佐藤治子副理事長(080・2009・1273)。

==============

 ■ことば

 ◇ジストニア
 筋肉が異常収縮して、全身や首がねじれたり、指が硬直する症状が出る。ピアニストが演奏の時だけ指が動かせなかったり、理髪師がはさみを持つと手がこわばるなど、特定の動作時だけ症状が出ることもある。国内の患者数は約2万人とされるが、「ジストニア友の会」によると、実数は5万人ともいわれる。脳深部刺激や筋緊張緩和の注射などの治療があるが保険適用外で医療費負担が大きく、治療法は確立されていない。友の会は08年、難病(特定疾患)指定を求めて国会に請願をしている。