読売新聞:左手のピアニスト瀬川さんオーストリアへ留学

左手のピアニスト、夢のオーストリア留学へ

オーストリア国立音楽大大学院に留学する瀬川泰代さん(広島市中区で)=浜井孝幸撮影
 意思に反して筋肉が収縮、硬直する病気「ジストニア」のため、左手だけで演奏する広島市のピアニスト瀬川泰代さん(24)が、オーストリア国立音楽大大学院に合格した。こうした障害を乗り越え、海外に音楽留学する例は少ないといい、「夢がかなった。音楽でたくさんの人に元気を与えたい」と意気込んでいる。
 瀬川さんは2006年、右手が難治性のジストニアと診断された。ちょうど広島市内の音楽大に進学したばかり。3歳で始めたピアノを一生の仕事にしようと決めていただけに練習にも身が入らなくなった。
 立ち直るきっかけをつかんだのは、4年の進級直前。同じ病気と闘う世界的ピアニスト智内威雄ちないたけおさん(35)(大阪府箕面市)の演奏を聴いた。左手だけで重厚な音を奏でる姿に感動し、指導を受けたいと申し出た。
 留学は高校時代からの夢だった。昨年6月には智内さんが学んだドイツ国立音大を受けたが、失敗。友人らの励ましを受けて再挑戦を決意し、表現力を磨く努力を重ねたという。
 オーストリア国立音大の審査では、バッハの曲をブラームスが左手用に編曲した「シャコンヌ」など3曲を演奏。「落ち着いて臨めた」といい、5日に合格の知らせを受けた。
 瀬川さんは「この1年間、本を読んだり多くの人と知り合ったりして世界を広げてきた。夢をあきらめないでよかった」と話している。智内さんは「同じ病気や障害のある若いピアニストの希望となるような演奏をしてほしい」と祝福した。
(2012年7月7日  読売新聞)