読売新聞 朝刊 茨城版に記事掲載されました

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希望奏でる左手のピアニスト

 右手を脚の上に置いたまま、左手だけで鍵盤を弾ませ旋律を奏でるピアニストがいる。10年前、留学先のドイツで右手が硬直する病を発症したが、その絶望から立ち上がり、今は関西を拠点に演奏活動を続けている。その音色が、21日、鹿嶋市宮中の鹿嶋勤労文化会館で震災からの復興を目指す被災者の心に届けられる。

左手のピアニストは、大阪府箕面市の智内威雄(ちないたけお)さん(34)。埼玉県蕨市出身で、幼少期からピアノの英才教育を受け、東京音楽大卒業後、ドイツのハノーバー音楽大に留学。数々の国際コンクールで入賞した。

 留学2年目の2001年、智内さんは右手に違和感を覚えた。親指が自由に動かせなくなり、やがて右手の全ての指が内側に丸まった。「ジストニア」と診断された。脳神経の機能異常と考えられ、腕や首、顔などの筋肉が意思とは無関係に硬直する。完治は望みにくい。

 「すっからかんになった。自分の中の芯がなくなった」。ピアノを弾けない喪失感にあえぎ、もう一度、両手で弾けるようになりたいともがいた。その一方で「頑張れば頑張るほど、元の場所にはたどり着けない」と空回りを自覚してもいた。

 2年以上のリハビリ。そんな時に出会ったのが左手だけで弾くピアノ曲の楽譜だ。「片手で弾く曲なんて」。高をくくっていたが、いざ弾いてみると、「楽曲を表現するに至らず、その奥深さに打ち負かされた」。

 その後、負傷や先天性の障害、ジストニアなど、片手のピアニストに用意された曲が多くあることを知った。「障害があってできないことを数えるより、やれることが無数にある」。

 帰国後、阪神大震災のメモリアルコンサートを開いたのを機に関西に拠点を置いた。被災に心を痛め、復興に気をもむ被災者を気遣い、東日本大震災の被災地でもコンサートを精力的に開く計画だ。「何も考えず、音に身を委ね、左手の魅力をゆっくり感じてほしい」。被災地では安らぎのメロディーを奏でたいという。

 シューベルトの「魔王」、ショパンの「別れの曲」などに加え、震災をテーマにした3曲を披露する。午後4時30分開場、5時開演。入場料2000円(高校生以下1500円)。チケット、問い合わせは鹿嶋勤労文化会館((電)0299・83・5911)へ。

(2011年8月18日 読売新聞)