2014/05/27 産経新聞朝刊(全国版)ジストニア関連記事

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脳神経疾患「ジストニア」…各種治療で症状軽減・抑制

2014.5.27 09:30 (1/3ページ)
ジストニアの症状が発症し、意思に反して指を巻き込んでしまう(古屋准教授提供)
ジストニアの症状が発症し、意思に反して指を巻き込んでしまう(古屋准教授提供)
 手指や唇などが思い通りに動かなくなる脳神経疾患のジストニア。局所性ジストニアは音楽家やスポーツ選手に多く発症する。人気デュオ「コブクロ」の小渕健太郎さんなど多くの音楽家を苦しめてきた。命に関わる病気ではないが、QOL(生活の質)に関わる病気だ。(油原聡子)
 
薬、注射、手術
 
 国立精神・神経医療研究センター神経内科の坂本崇医師は「ジストニアは筋肉が勝手に緊張した結果起こる異常な姿勢や運動のことです」と話す。
 全身性タイプと局所性タイプがあり、国内の患者数は約2万人と推計されている。発症のメカニズムは完全に分かっていないが、脳の中の運動を命じる回路が異常を起こし、発症するとされる。音楽家やスポーツ選手は同じ動作を繰り返すことがきっかけで発症するという。ピアニストの場合、演奏中に指を意思に反して巻き込んでしまうといった症状が出る。
 医療関係者の間でもあまり知られておらず、診断は難しい。「脳の写真を撮影しても異常が見られないことがほとんど。自覚をもとに診断します」と坂本医師。誘因となる動作をしなければ症状が出ないが、坂本医師は「誘因となる動作をしなければ済むという話ではない。音楽家の場合、演奏活動に支障が出て、生活ができなくなってしまう」と話す。
治療法は、(1)服薬(2)ボツリヌス注射-が一般的で、「早めの治療だと治療成績も良い。9割まで症状が改善する人もいる。治療によって、うまく症状をコントロールすることは可能」(坂本医師)。
 薬の場合、抗てんかん薬やパーキンソン病などの薬が処方される。ただ、副作用が強く出ることがあり、眠気や集中力の低下の症状が見られることもある。注射は、緊張状態の筋肉にボツリヌス菌の産生する神経毒素を打つことで神経をまひさせ、異常な運動を抑制する。
 外科手術もある。東京女子医大脳神経外科の平孝臣教授はジストニアの手術治療の経験が多く、局所性ジストニアの手の症状の手術だけでも年間30例程度行っている。手術は筋肉へ指示を出す脳の中の神経回路の一部を電気で焼き固め、異常な指示が届かないようにする。平教授は「容易な手術ではないが、この手術で、これまで10人に9人の割合で症状が出なくなった」と話す。
 
電気刺激で
 
 体に負担のかからない新たな治療法の研究も進んでいる。
 脳に電気刺激を与え、局所性ジストニアの症状を改善する方法の開発に、上智大学の古屋晋一准教授らの研究グループが世界で初めて成功。4月、アメリカの学術雑誌のオンライン版で先行公開された。
 古屋准教授によると、健常者10人、ジストニア患者10人の計20人のピアニストに対し、演奏中に頭皮に電極を置き、2ミリアンペアの電流を約20分間、流した。健常者には変化はなかったが、患者は全員症状が軽くなったという。
 古屋准教授は「症状の改善は個人差が大きかったが、症状の重い人ほど効果があった。研究を続け、完治のための方法を探っていきたい」と話している。
                  
 
ピアニストの智内さんは右手に発症
 
 ピアニストの智内威雄さん(37)はドイツに留学中の平成13年、右手にジストニアを発症した。親指が硬直して巻き込んでしまい、演奏中に加え、日常生活にも支障が出るようになった。ATM(現金自動預払機)のボタンが押せなかったり、洗髪のときに指が巻き込んでしまい、こぶしで洗ってしまったり。
 当初は服薬治療を受けたが体に合わず、リハビリを受けた。「最初は症状が数時間続くこともあったが、リハビリでどこの筋肉を緩めれば力が抜けるのか分かってきた」
 今は日常生活に支障はなく、左手だけで演奏する「左手のピアニスト」として活躍。世界でもあまり知られていない、左手だけの楽曲を紹介する演奏活動を行っている。智内さんは「ほとんどの人は発症したら第一線で競い合うことは難しい。演奏家は小さいときから練習を重ね、演奏が本人の一部になっている。演奏ができなくなるということは生きるすべを失うだけでなく、精神的な意味でも大変なこと」と話している。