読売新聞(広島版):瀬川さんの記事掲載

再起の左手 広響と競演 ジストニアと闘うピアニスト瀬川さん

29日フェニックスホール 智内威雄さんもエール

本番に向けて練習に励む瀬川さん(広島市中区で)=浜井孝幸撮影
 意思とは関係なく、筋肉が収縮・硬直する「ジストニア」のため、左手だけで演奏する広島市中区のピアニスト瀬川泰代さん(23)が29日、同市内のコンサートで広島交響楽団と“競演”する。同じ病気と闘う世界的ピアニスト智内威雄(たけお)さん(35)(大阪府箕面市)に次ぎ、史上2人目という。念願の舞台に立つ瀬川さんは「支えてくれた人への感謝の気持ちを音に込め、困難に立ち向かう勇気も与えたい」と話している。(有賀かほり)

 ジストニアは、脳の神経回路の機能異常が原因と考えられ、ピアニストやゴルファーなど、同じ動作を反復する職業で起こりやすいという。

 瀬川さんは3歳でピアノを始め、高校3年で症状が表れた。エリザベト音大3年の時、広島市内で初めて智内さんの演奏を聴いた。「左手だけで重厚な音が響く」。智内さんにメールを送り、毎月1、2回大阪へレッスンに通った。昨年6月はドイツの国立音大を左手の演奏で受験したが、海外留学の夢はかなわなかった。

 不合格の知らせに1か月ほど落ち込んだ。しかし、友人からの「泰代の音楽に取り組む姿勢に励まされる」「ずっと応援してるよ」という言葉を受け、「音楽を続けることで周囲を元気付けたい」と前向きになれた。

 6年前に智内さんがプロ楽団と共演した今回の演奏会で再起を果たすことを目標にした。智内さんからは「ピアノとの対話を重視して」「手首の力を抜いて」などとアドバイスされ、楽譜に書き留めていった。五線譜の白紙部分は文字で黒く埋まった。

 昨年11月にあったオーディションではプロ演奏家ら4人が審査。「努力した結果を聞いてもらうことが楽しみだった」。曲は智内さんが同じ舞台で披露したラベルの「左手のためのピアノ協奏曲ニ長調」。曲調の激しさに任せて、無我夢中に鍵盤をたたいた。

 合格通知を受けると、すぐに智内さんに電話で知らせた。「良かったね」と落ち着いた声が返ってきた。

 智内さんは「私がプロとしてやっていく自信をつけたコンサート。障害を抱えた音楽家だけでなく、多くの人に勇気と感動を与える演奏にしてほしい」と期待する。

 当日は同市中区の広島国際会議場フェニックスホールで、午後6時半開演。チケットは2500円(全席自由席)。問い合わせは広響事務局(082・532・3080)。

(2012年2月15日 読売新聞)