読売新聞:難治性疾患のピアニスト・夢の独国立音大受験へ

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難治性疾患のピアニスト 夢の独国立音大受験へ

「夢はあきらめたくない」とドイツ留学挑戦への思いを語る瀬川さん(広島市中区で)=浜井孝幸撮影
 意思に反して筋肉が収縮などする病気・ジストニアのため、右手で演奏ができなくなった広島市中区のピアニスト瀬川泰代さん(23)が、ドイツの国立音楽大の入試に挑む。同じ病気と闘う世界的なピアニスト智内威雄
たけお
さん(34)(大阪府箕面市)も後押ししており、瀬川さんは「あきらめなければ夢がかなうことを伝えたい」と、合格を誓う。

 瀬川さんは3歳でピアノを始め、広島市内の音楽大に進学。大学1年の秋、約1年前に違和感を抱き始めた右手を難治性のジストニアと診断された。左手だけで演奏するために作られた曲を練習しようとしたが思い通りにならず、つらさが募った。

 転機は4年の進級目前だった。広島県内で智内さんの演奏を聴いた。「左手だけでこんな素晴らしい音を出せるなんて」。智内さんにメールを送ると、すぐに返事があり、毎月レッスンを受け始めた。

 海外留学は高校の頃からの夢。「両手で弾けない自分を受け入れてくれるのか」。不安は尽きなかったが、智内さんが大学側に働きかけてくれたこともあり、受験が認められた。

 5月から毎週、夜行バスで智内さんの元に通い、本番に備えてきた。「左手の曲は、逆境でも音楽への情熱を捨てない人々の思いが込められている。聴く人に元気を与えられる演奏を」と意気込む。

 11日に出発し、ライネッケの「左手のためのピアノ・ソナタ」などを披露する。智内さんは「瀬川さんは明るく、つらさを周囲に見せない。留学がかなえば、どんどん伸びる」と朗報を待つ。

ジストニア 腕や首、顔などの筋肉が自分の意思とは関係なく、収縮や硬直をする病気。脳の神経回路の機能異常が原因と考えられ、ピアニストや理容師、ゴルファーなど同じ動作を繰り返す職業で起こりやすいとされる。薬剤性なども含め、患者は推計5万人。

(2011年6月10日 読売新聞)